研究概要 |
過去の研究で、矯正的に歯の移動を行った圧迫側歯根膜線維をLaser capture microdissection法により採取し、マイクロアレイで発現遺伝子の網羅的解析を行った。本年度はこの中で、歯の移動開始初期に発現が強く見られたHSP27とHSPa1aのmRNA、タンパクの発現をin vivoにて詳細に検討を行った。結果として、HSP27の発現に差はなかったものの、HSPA1Aの発現が矯正的歯の移動開始6時間後に有意に増加することがin vivoで明らかとなった。この研究結果は、Histochemistry and Cell Biologyにて掲載された(Arai C., et al.Histochem Cell Biol 2011)。このときに圧迫側歯根膜に加わるストレスを、毛細血管の圧縮により生じる酸欠と推察した。そこで、歯根膜培養細胞を1,3,6,12,24時間低酸素状態で培養したところ、HSPA1A mRNA発現量にin vivoと同様の結果が認められた。現在は、この条件下で発現するHSPA1Aが、破骨細胞の分化に影響する因子(GM-CSF,M-CSF,RANKL,VEGFなど)にどのような影響を及ぼすか明らかにするために、不活化したセンダイウィルスベクターを用いて、歯根膜培養細胞へHSPA1A siRNAを導入する研究の条件設定をin vitroで行っている。また、同じベクターを用いてin vivoでも検討を行う予定である。 本研究は、歯科矯正学における歯の移動現象を分子生物学的に解明するだけでなく、破骨細胞の分化様相に新たな概念を提示するものであり、臨床応用へ展開するための研究基盤となることを確信する。
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