研究概要 |
申請者はこれまで、矯正的に歯を移動した初期のラット圧迫側歯根膜細胞でHeat shock protein A1A(HSPA1A)が顕著に発現することを明らかにしてきた。この領域の歯槽骨表面には後に破骨細胞が多く出現し、歯槽骨の吸収が生じて歯の移動が起こることから、HSPA1Aが破骨細胞による歯槽骨の吸収に何かしらの影響を及ぼす可能性が示唆される。そこで本年度は、ラット骨髄由来破骨前駆細胞にHSPA1Aのリコンビナントタンパク(100ng,500ng,1000ng,2000ng/ml)を添加して培養を行い、破骨細胞の分化に対するHSPA1Aの影響を調べた。培養開始10日目に酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(TRAP)染色を行い、多核を有する破骨細胞数を計測した。結果としては、リコンビナントタンパクを添加していない対照群が20.8±11.7個に対して実験群がそれぞれ7.4±3.9,5.6±2.8,5.8±4.7,4.4±3.9個と破骨細胞数が減少する傾向が認められた。このことからHSPAIAが破骨細胞の分化に抑制的に働く可能性が示唆されるが、現在、再現性を検証するために繰り返し実験を行っている。また、siRNAを用いてHSPA1Aの発現抑制を行ったヒト歯根膜培養細胞を一定時間酸欠状態で培養し、HSPA1Aとアポトーシスや破骨細胞分化に関与する因子との関連についてmRNAレベルで検討を行っている。 本研究は、歯科矯正学における歯の移動現象を分子生物学的に解明するだけでなく、破骨細胞の分化様相に新たな概念を提示するものである。
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