本研究では、新しい情報処理理論である自己組織化マップ(SOM)を用い、外科的矯正治療を行った多数の成人症例から、初診時の軟組織側貌および硬組織形態を顎顔面形態として統合的に捉え、SOMにより複数のバーチャルパターンを抽出し、これらをテンプレート化することで外科的矯正治療の診断を支援する診断システムの構築を目指している。 平成22年度は、骨格性下顎前突患者90名の初診時および外科的矯正治療終了時の側面セファログラムを収集し、それぞれに59か所の計測点を付与し、これらの座標値を118次元のSOMへの入力ベクトルとし、計算ユニットを2×2に配置したマップで1万回の繰り返し学習を行った。 その結果として、これらのユニットの学習結果を視覚的に再構成したところ、硬組織形態としてオトガイの突出度、中顔面の後退、下顔面高、歯系の補償の有無、咬合平面傾斜を特徴とし、さらにこれらと関連した軟組織形態の特徴を示す4つの側貌形態のパターンが抽出された。 これにより、硬組織形態も含めて臨床的に重要な4つの側貌パターンが抽出されたものと考えられ、テンプレート化のための複数のパターンを作成できた。 さらに、別に収集した成長期反対咬合者91名を資料とし、角度ならびに距離の35計測項目の計測結果から作成した10×10の成長前と成長後のマップを作成し、外科的矯正治療を行った90名の初診時の形態分析結果をあてはめた。その結果、成長後に顎関係の不良であったマップの領域に集中する傾向がみられ、初診時のマップとの領域の対応が確認された。これにより、成長段階から診断を支援できるシステム構築の可能性も示された。
|