本研究課題は、膜透過性低分子化合物を用いてセルサイクル調節因子p53の発現を制御し、歯周組織の再生を図ることを目的としている。平成22年度の研究成果について以下に報告する。 膜透過性低分子化合物HLI98あるいはHLI373のp53発現誘導能を確認することを目的として、ヒトレンズ細胞RPE細胞にこれらの化合物を添加し、p53タンパクの発現量を検討した。その結果、HLI98、HLI373ともに、化合物添加8時間後にp53の発現を上昇させた。次に、歯周組織構成細胞の一つである骨芽細胞に着目し、これらの化合物が骨芽細胞におけるp53の発現量を上昇させるか検討した。まず、いくつかの骨芽細胞株における野生型p53の発現を確認したところ、BMSC (human bone marrow stromal cell)、MC3T3-E1、C2C12細胞において野生型p53の発現が認められた。本実験ではp53の過剰発現を目的としていることから、発現量の比較的少ないBMSCを用いて解析を進めることとした。次にBMSCにこれらの化合物を加え、p53の発現量の変化を検討したところ、ヒトレンズ細胞同様に、これらの化合物はBMSCでのp53の発現量を上昇させた。 以上の結果より、骨芽細胞株BMSCを用いることで、HLI98及びHLI373の骨芽細胞分化能の検討が可能であることが明らかとなった。今後は、これらの化合物の骨芽細胞分化能に対する効果を明らかにするために、石灰化誘導能ならびに骨関連タンパク質(オステオカルシン、I型コラーゲンなど)の発現を検討してゆく。
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