研究概要 |
本研究の最終目標は,糖尿病患者に頻発する歯周病悪化メカニズムを解明して,糖尿病-歯周病の相互作用の病態理論を構築することである。本研究においては,歯周組織の構築細胞である歯肉線維芽細胞の動態に着目し,近年,炎症や腫瘍の領域で注目されている膜タンパク質のシェディングに関与するADAM (a disintegrin and metalloproteinase)ファミリーの一つであるTACE (TNF α converting enzyme,別名ADAM17)を標的分子とし,その生体特異的InhibitorであるTimp3 (tissue inhibitor of metalloproteinase-3)との相互作用を明らかにした後,一連の細胞反応に及ぼす"高血糖"の影響を検討している。本年度は,高血糖状態が歯肉線維芽細胞およびヒト単球系細胞株THP-1における1)TACEの活性に及ぼす影響の検討,2)シェディングによって誘導される可溶型IL-6受容体の産生性に及ぼす影響の検討を行った。 まず,マクロファージ様に分化させたTHP-1に対して,高血糖状態を想定した25mMのD-glucoseを作用させたところ,TACEの活性がcontrol(5.5mM D-glucoseを作用させた細胞)に比較して,活性が有意に上昇した。浸透圧コントロールとして19.5mMのMannitolを作用させたところ,controlに比較して活性が上昇する傾向がみられた。歯肉線維芽細胞を用いて同様の実験を行ったところ,高血糖状態のみでTACEの活性が上昇した。次に,高血糖状態がシェディングによって誘導される可溶型IL-6受容体の産生性に及ぼす影響を検討した。マクロファージ様に分化したTHP-1および歯肉線維芽細胞ともに,高血糖状態で48時間刺激したところ,その産生性が亢進した。 以上の結果から,高血糖状態はTACEの活性を亢進することによって,そのシェディング効果(標的膜タンパク質の産生)を促進する可能性が示唆された。糖尿病患者における炎症悪化のメカニズムの1つとして,TACEが関与している可能性は非常に高く,引き続き本研究を継続していく必要があると考える。
|