研究概要 |
本研究の最終目標は,糖尿病患者に頻発する歯周病悪化メカニズムを解明して,糖尿病-歯周病の相互作用の病態理論を構築することである。本研究においては,歯周組織の構築細胞である歯肉線維芽細胞の動態に着目し,近年,炎症や腫瘍の領域で注目されている膜タンパク質のシェディングに関与するADAM(adisintegrin and metalloproteinase)ファミリーの一つであるTACE(TNFα converting enzyme,別名ADAM17)を標的分子とし,その生体特異的InhibitorであるTimp3(tissue inhibitor of metalloproteinase-3)との相互作用を明らかにした後,一連の細胞反応に及ぼす"高血糖"の影響を検討している。本年度は,高血糖状態によって歯肉線維芽細胞からの産生が亢進するMMP-3に着目し,MMP-3がヒト単球系細胞株THP-1における可溶型IL-6受容体(sIL-6R)の産生性に及ぼす影響の検討を行った。すなわち,マクロファージ様THP-1に対して,リコンビナント活性型MMP-3を作用させた際の,1)sIL-6RのmRNA発現の定量(real-time PCR),2)培養上清中のsIL-6Rの定量(ELISA),3)膜上のIL-6Rの定量(Flowcytometry)を検討した。活性型MMP-3を作用させると,1)sIL-6RのmRNA発現には影響を及ぼさない,2)培養上清中のsIL-6Rの産生性を亢進する,3)膜上IL-6Rの発現を減少させる,という結果が得られた。以上の結果から,高血糖状態によって歯周組織で産生が亢進するMMP-3が炎症性細胞(単球/マクロファージ系細胞)に作用すると,シェディング効果によってsIL-6Rの産生を促進し,さらなる炎症悪化を惹起する可能性が示唆された。糖尿病患者における炎症悪化のメカニズムの1つとして,シェディングが関与している可能性は非常に高く,引き続き本研究を継続していく必要があると考える。
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