iPS細胞と唾液腺前駆細胞の共培養で思うような成果が得られなかったため、その打開策として,CD49f陽性唾液腺細胞(CD49f+細胞)が産生する細胞外液性因子を網羅的に解析し,その中で唾液腺の再生に及ぼす可能性のある因子の見つけ出すこととした。 1. 組織から細胞を分離後のCD49f+細胞数は総細胞数の約10 % 存在し,その細胞群は同時にその細胞内にlamininを発現していた。CD49f+細胞の形態は小型の紡錘形で,CD49f陰性(-)細胞は培養皿への付着に乏しく,形成したコロニーの増殖速度はCD49f+細胞に比べて遅かった。2. CD49f+細胞とCD49f-細胞では,mRNA発現量に3倍以上差のある成長因子が12種類あり,そのうちinhbbの発現量は,CD49f+細胞の方がCD49f-細胞に比べ有意に多かった。3. inhbbに関連するinhba,follistatinの発現量は,CD49f+細胞の方がCD49f-細胞に比べ有意に多かったが,inhaの発現量に有意な差はなかった。4. Inhibin βA,Inhibin βBの発現はCD49f+細胞の方がCD49f-細胞に比べ多かったが,両者にFollistatinの発現はなかった。 CD49f+細胞は唾液腺の中で未分化性を保持した細胞で,Inhibin βAとInhibin βBを発現し,inhaのmRNAの発現がないことから,Activin A,AB,Bを構成している可能性がある。また,follistatinが発現していることから,CD49f+細胞の増殖にFollistatinが関係している可能性がある。このことは,Activin-Follistatinの相互作用が唾液腺の修復や再生に関与する可能性があることを示唆している。よってこれらのタンパクがiPS細胞から唾液腺細胞への分化にも関与する可能性がある。
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