研究概要 |
これまでの報告から,胃粘膜防護薬であるイルソグラジンマレイン酸がラット歯肉炎モデルにおいて,歯周病原性細菌Aggregatibacter actinomycetemcomitans存在下の歯肉上皮細胞が産生するIL-8などの炎症性サイトカインの発現を抑制し,さらに細胞接着因子であるE-cadherinの発現低下を回復することで,炎症を制御することを明らかにしてきた。このことから,イルソグラジンマレイン酸は歯周病の予防薬として有用である可能性がある。本研究では,そのメカニズムの解明することを目的とし,細菌の侵入に対して防御的に機能する上皮細胞のバリアー機能に着目し,分子細胞レベルで機能解析を行った。イルソグラジンマレイン酸を作用させた歯肉上皮培養細胞は炎症性サイトカインTNF-αによって低下する上皮細胞間バリアーを回復することが解明された。さらに,細胞接着装置であるE-cadherin,claudin-1の構造がTNF-αによって破壊されるが,イルソグラジンマレイン酸の投与によってその破壊は抑制されることが明らかとなった。これらのことから,炎症性サイトカインによって誘導された歯肉上皮細胞の細胞間バリアーの破壊が,イルソグラジンマレイン酸の投与によって予防できることが示唆された。この結果,イルソグラジンマレイン酸が細菌の侵入に対して予防的に作用することが示唆された。引き続き,この作用機序の解明について研究を継続していく予定である。
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