糖化最終産物(AGE)の受容体(RAGE)を介した歯周病悪化のメカニズム解明のために、まず、歯肉上皮細胞、歯周靭帯由来線維芽細胞、および骨髄由来間葉系幹細胞におけるRAGEの発現を確認した。しかし、歯肉線維芽細胞にはその発現は確認できなかった。また、RAGEのライガンドであるS100を歯肉上皮細胞に作用させLI-8の発現と細胞間コミュニケーション能への影響を調べた。歯肉上皮細胞におけるIL-8の発現は、S100タンパクの作用によって増加していた。細胞間コミュニケーション能は、S100タンパクを低濃度(0.5μg/ml)で短時間作用(6時間)させると亢進していた。一方で、高濃度(10μg/ml)で長時間作用(24時間)させると抑制されていた。そのメカニズムを解明するために、細胞間コミュニケーションを担うギャプジャンクションの構成タンパクであるコネキシンの発現へのS100タンパクの影響を調べた。低濃度(0.5μg/ml)で短時間作用(6時間)S100タンパクを歯肉上皮細胞に作用させたところ、その発現は増加しており、高濃度(10μg/ml)で長時間作用(24時間)S100タンパク作用させるとその発現は減少していた。IL-8は歯肉上皮細胞のコネキシン発現を抑制するという報告があるため、この実験系で発現したIL-8の最高濃度(300pg/ml)を歯肉上皮細胞に作用させたところ、コネキシンの発現には影響していなかった。このことは、S100タンパクは歯肉上皮細胞に作用し、直接的にコネキシン発現を抑制することで、細胞間コミュニケーションを調節しているのではないかということが確認できた。つぎに、RAGEのリガンドの骨芽細胞への影響を調べるために、腸骨由来間葉系幹細胞にS100タンパクと同時に骨分化培地を作用させ、石灰化能を調べた。S100タンパクを事前に作用させても、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化は影響していなかった。糖尿病の歯周炎を悪化のメカニズムの一つとしてRAGEを介した、そのリガンドの作用が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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