研究概要 |
本研究では、歯周組織でのレドックス制御(酸化ストレス反応)について詳細を明らかにし、新しい歯周病の予防や治療法に酸化ストレス防御機構であるKeap1-Nrf2システムを応用することを目指した基礎研究である。すなわち、酸化ストレス刺激が歯肉上皮細胞や歯肉線維芽細胞における炎症性サイトカインおよび抗菌ペプチドの発現へおよぼす影響を調べ、歯周組織において酸化ストレスが生じる組織障害や炎症増強の機構を明らかにする。さらに、Keap1-Nrf2を制御すること(Keap1の抑制やNrf2誘導)による歯肉上皮細胞や歯肉線維芽細胞での酸化ストレス防御機構の促進を介した組織障害や炎症の抑制をめざす。H22年度では株化した上皮細胞において酸化ストレス刺激の条件検討を行った。用いた酸化ストレス刺激はH202・UV・p.g.LPS TNF-αである。さらに、酸化ストレス防御機構に重要な役割を果たす転写因子Keap1とNrf2が、歯肉上皮細胞に存在することを確認した。H23年度は歯肉上皮細胞や歯肉線維芽細胞に酸化ストレス刺激を与え、酸化ストレスマーカーとKeap1-Nrf2システムへの影響を調べること、またsiRNAによるKeap1の抑制あるいはNrf2誘導因子によるNrf2の活性化をはかり、酸化ストレスによる組織障害の抑制と炎症性サイトカインの減少や抗菌ペプチドの発現増加による歯周組織細胞の酸化ストレスに対する防御機能促進をめざすことを目的とした。 H23年度研究成果1.歯周組織細胞への酸化ストレス誘導系の確立→結果:歯肉上皮細胞においてp.g.LPS濃度依存的(0.1,1,10μg/ml)に酸化ストレスマーカーである8-OHdGが上昇した。またこの条件でサイトカイン(IL-6,TNF-α)や抗酸化酵素(HO-1,NQO-1)の遺伝子発現が増加したが、抗酸化酵素(GCLC,GCLM)は変化がなかった。一方、歯肉線維芽細胞においてp.g.LPS添加24時間後のIL-6,TNF-αやHO-1および抗菌ペプチド(S100A9,β-defensin2)が増加したが、NQO-1,GCLC,GCLMや抗菌ペプチド(S100A8)は変化がなかった。2.Nrf2誘導因子によるNrf2活性の誘導確認→結果:p.g.LPS刺激により歯肉線維芽細胞におけるNrf2の核への移行が促進された。また、KGFによりNrf2遺伝子発現が増加し、同時にHO-1も増加した。本研究から、歯肉上皮細胞や歯肉線維芽細胞においてp.g.LPSにより酸化ストレスが生じること、また、keap1-Nrf2を介した抗酸化酵素や抗菌ペプチドのような酸化ストレス防御機構が働くことがわかった。また、その防御機構を促進する因子としてKGFが有効である可能性が示唆された。
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