骨芽細胞と破骨細胞のカップリングに重要な役割を果たすことが明らかとなりつつある、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)を用いた歯槽骨再生薬の開発とに前進することが本研究の目的である。平成22年度は、S1Pのin vitroにおける骨芽細胞分化に対する影響の検討、S1Pのin vivoにおける骨再生の評価を行うことであった。 S1Pは、骨芽細胞の増殖には影響を及ぼさなかったが、分化マーカーであるアルカリフォスファターゼ活性を上昇させた。また、S1Pが石灰化に及ぼす影響について、von kossa染色、アリザリンレッド染色を用いて検討したところ、S1Pは石灰化を促進することが明らかとなった。さらに、S1Pは骨芽細胞と破骨細胞のカップリングに重要なオステオプロテジェリン(OPG)のmRNA発現を増加させた。OPGは、骨芽細胞分化に重要なWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の標的遺伝子であるため、S1PがWnt/β-カテニンシグナル伝達経路に及ぼす影響について検討した。その結果、S1PはGSK-3βの活性を阻害し、このシグナル伝達経路の転写因子であるTCF/LEFの転写活性を増加させたことから、S1PがWnt/β-カテニンシグナル伝達経路を活性化する可能性が考えられる。S1Pのシグナルとしては、S1P_1受容体がGiと共役し、その下流のシグナルにPI3K/Akt/GSK-3βがあることが知られているため、S1PがPI3K/Akt/GSK-3βとWnt/β-カテニンシグナル伝達経路を活性化するメカニズムについて現在検討している。 In vivoにおいては、ラットの脛骨に欠損を作製し、S1Pが骨形成に及ぼす影響についてμCTを用いて検討した。その結果、S1Pは、新生骨の形成を促進させることが明らかとなった。
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