研究概要 |
歯周病において,細菌感染による生体防御と炎症反応による自己破壊のバランスおよび炎症反応と骨吸収との関連性は明確でない。この為,生体側の病態の解明が必須である。 本研究の目的は,(1)病態を反映した歯周病モデルの確立を目指して,炎症性因子としてTNFalpha(腫瘍壊死因子)遺伝子強発現[hTNF-TG]マウスを用いて,新規の炎症性歯周病モデルの作製を試みる。(2)このモデルの解析により,歯周病に対する炎症性遺伝子の役割を生体レベルで解明する。(3)炎症性および歯槽骨吸収の両者の歯周病モデルに,歯周治療薬を投与して評価することである。 本研究では,新規炎症性歯周病モデルの確立を試みた。H20-21年度の科学研究費による研究でOPGの遺伝子欠損マウスでは,歯槽骨吸収が起こることを見出した。そこで,hTNF-TGマウスとOPG遺伝子欠損マウスの交配より,hTNF-TG・OPGヘテロ欠損二重遺伝子改変マウスを交配より得た。このマウスの歯槽骨吸収を評価するため,上顎歯槽骨のマイクロCTの撮影を行った。撮影画像より3次元構築像を作製した。歯槽骨吸収量は,ヒトと同様にセメント・エナメル境から歯槽骨頂までの距離を計測して比較した。結果は,炎症性因子であるTNFを強発現させたマウスの歯槽骨吸収は増加しなかった。次に,hTNF-TG・OPGヘテロ欠損二重遺伝子改変マウスの歯槽骨は軽度に増加した。歯槽骨吸収において,TNF強発現の影響は少ないことが示唆された。hTNF-TG・OPGヘテロ欠損二重遺伝子改変マウスに歯周病細菌の接種を行い,その歯槽骨吸収量を検討中である。本研究により,TNFの増加のみでは歯槽骨吸収を引き起こすのに不十分であることが示唆された。歯槽骨吸収における炎症反応に対する理解が深まった。
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