研究概要 |
超高齢社会となった日本では,嚥下障害への対応が急務である.本研究では,申請者らが開発した嚥下内視鏡による食塊形成機能評価法を用いて,口腔のどのような因子が食塊形成に関与するかを検討することを目的としている.本年度は,評価方法・項目の妥当性の検討に重きをおいて研究を行った. 健常若年成人(20名)と健常高齢者(10名)を対象に,食塊形成機能および口腔機能の比較を行った.食塊形成機能評価の被検食はこれまでに申請者らが報告した報告と同様,2色(白と緑)の米飯を用いることとした.咀嚼回数を規定すると不自然な食塊形成となるため,被検食を「普段通り食べて下さい」と指示したときに咽頭に送り込まれた食塊を内視鏡にて評価を行った.その結果,若年成人の食塊形成機能は粉砕度0.8±0.7点,集合度1.7±0.6点,混和度1.6±0.8点であり,一方高齢者は,粉砕度0.6±0.5点,集合度1.2±0.4点,混和度1.2±0.8点であった.粉砕度,混和度には有意差が認められなかったが,集合度において高齢者が有意に低いことが明らかとなった.申請者らの先行研究により,嚥下閾に達するには集合度が最も重要であることが明らかになっており,高齢者において集合度が有意に低いということは,高齢者における誤嚥や窒息の原因として食塊形成機能の低下,とくに集合度の低下が関与している可能性が示唆された.食塊形成における口腔機能の影響として,現時点のサンプル数では,義歯の有無,咀嚼回数,構音評価,全身状態等による影響は認められず,唾液分泌量の減少が集合度の低下に影響している傾向が認められた.しかしながら,まだサンプル数は十分ではなく,来年度対象者を増加して,最終的には食塊形成に影響を与える口腔の因子を明らかにする予定である.
|