今年度は昨年度の生検トレパンによる創作製方法を確立しデータを揃えるための実験を行った。創部は創周囲を含めデジタルカメラにて経時的に撮影した。摘出した組織は、パラフィン包埋用、凍結切片用、樹脂包埋用に分け、それぞれ常法に従い、固定、脱水、包埋した。パラフィン切片はヘマトキシリン・エオジン染色、エラスチカ・ゴールドナー変法染色、渡銀染色を施し、光学顕微鏡(光顕)下での観察を進めた。凍結切片ではフィブロネクチンと血管内皮細胞の局在を免疫組織化学的に観察した。樹脂ブロックからは準超薄切片を作製しトルイジンブルー染色にて観察を行った。 肉眼的には、受傷後15日目で両群ともに創部は瘢痕化していた。 光顕的には、糖尿病群の肉芽期では対照群にはみられない帯状の線維成分が存在し、その部位に線維芽細胞や新生血管を主とする肉芽組織の存在を認めなかった。組織再建期では炎症細胞である好中球やマクロファージの存在を認め、15日目では肉眼的には対照群と同様に治癒に至っていたが、対照群に比べて膠原線維の分布が疎であった。肉芽期から組織再建期の線維成分の変化を渡銀染色でみたところ、対照群では、5日目には細網線維と膠原線維が混在していたが、次第に膠原線維に置き換わり、15日目には膠原線維が密に分布していた。糖尿病群の5日目に創部中層でみられた線維成分において細網線維を確認し、その周りの肉芽組織では膠原線維の分布を認めた。細網線維は7日目では創全体に、15日目では創部表層から中層でみられ、膠原線維の新生が遅延していた。また5日目に糖尿病群でみられた線維成分においてフィブロネクチンの局在を確認した。 以上、本課題により糖尿病群の肉芽期でみられた線維成分の残存が治癒遅延に影響していることが示唆された。
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