網膜剥離、糖尿病性網膜症、黄班円孔等の網膜疾患に対して行われる硝子体腔内のタンポナーデ術では、患者は術後数日~約10日間にわたり下を向いた姿勢(うつむき姿勢)の保持を余儀なくされる。うつむき姿勢の保持により多くの患者は頚部痛、腰痛、精神的苦痛等を訴え、臨床現場では温罨法やマッサージ等の援助が行われることが多いが、このような患者の苦痛や援助の有効性についてはこれまでに詳細に調べられていない。本研究は、眼科疾患術後のうつむき姿勢を想定した体位の保持が身体へ及ぼす影響を生理学的、心理学的側面から調べ、更に温罨法およびマッサージの身体への効果を検討することを目的とした。本研究における被験者は、まず基礎的な知見を得るために眼科疾患患者ではなく健常成人とし、眼科疾患術後のうつむき姿勢を想定して測定を実施した。被験者の年齢は、網膜剥離の発症が10~20歳代および60歳以上に二極化していることや、糖尿病性網膜症および黄班円孔は60歳以上に多く発症することから、本研究では、被験者を20歳代および60歳以上の健常成人とした。 平成25年度は、60歳以上の成人男女計12名を被験者として測定を実施し、主にうつむき姿勢による苦痛に対する温罨法の効果について心拍数、心拍変動解析による心臓自律神経活動指標、皮膚温、筋硬度、POMSおよびVASを用いて検討を行った。その結果、60歳代以上の成人においては、うつむき姿勢の保持により気分的な活気の低下と疲労の増大が起こることが示され、疼痛はうつむき姿勢の時間と共に増強するが、温罨法の介入を行うことで軽減される傾向が見られた。
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