科学的根拠に基づいた実践(EBP)の概念の普及とともに、看護師にはエビデンスや科学的根拠といった研究成果を実際の臨床で活用し、患者に最も適したケアを提供することが求められている。しかし、たとえ研究成果の臨床活用の重要性を理解していたとしても、実際には困難と感じる看護師は少なくない。研究成果の活用には、看護師個々の認識や能力、職場環境、研究そのものの質などによる影響が指摘されており、各側面における阻害要因と促進要因やそれら要因間の関連を明らかにする必要がある。そこで本研究は看護実践における研究成果を活用したケア改善を促進するため、看護師の研究成果活用の阻害要因と促進要因の解明を目的とした。初年度は、理論的枠組みの見直しを行うため協力の得られた6施設の21名の看護師を対象にインタビュー調査を行った。調査は研究者所属大学の研究倫理審査委員会の承認を得た後、対象者の所属施設の代表者の承諾と対象者本人の同意を得てから実施した。結果、(1)スペシャリスト等の研究成果の情報収集や吟味、活用に高い関心を持つケア改善のキーパーソンとなる存在の看護師がいること、(2)他の看護師に遠慮の感情や職場に気軽に相談できない雰囲気があるとケア改善には起こりにくいこと、(3)看護師は、ケアの改善を役割として課され複数で取り組むことが出来、改善内容を普及させるまでの手順や方法が組織的に整っているとケアの改善が継続して行われやすいこと、(4)ケア変更を安易に受け入れない看護師の中には研究成果の吟味の不十分さや費用対効果の問題(経営への貢献の低さ)に気づいていることがあり、むしろ必要な場合があること、(5)患者への深い関心の向け方や論理的な論文の読み方や書き方といった、看護の姿勢やアカデミックスキルが重要であることなどが明らかになった。来年度はこれらの概念を用いて定量調査を行う予定である。
|