近年、高血圧の治療や予防の啓蒙が進歩し、急激な経過で死亡する脳出血の減少と死亡率の低い脳梗塞の増加が報告されている。脳血管疾患後遺症は介護が必要となった原因の約3割を占めており、この様な患者の療養生活を快適に整える援助方法を検討することは急務である。片麻痺患者の麻痺手に健手にはない独特の不快臭を伴う事が多いことに疑問を感じた。ヒトの皮膚は外部刺激からの防御のため弱酸性の皮脂膜で覆われており、この皮脂膜が時間とともに脂肪酸に変化して皮膚表面がアルカリ性に傾くことで細菌が繁殖しやすい環境になる。不快臭は細菌によるこの脂質の分解作用によって発生すると考えられている。そこで、麻痺手の手掌部環境(特に皮膚ATP値・皮膚pH値)に着目し、不快臭増悪の原因や条件の明確化、および、それら不快臭増悪因子を除去するための援助方法の検討を目的とした調査を実施中である。平成22年度は、麻痺手の清潔に関する実態や援助方法の現状把握のため、資料収集、研修会参加、他研究者からの教授、施設の見学などを行った。資料収集においては、麻痺手だけでなく健常者の手指衛生や汚染度に関する研究も収集し、片麻痺患者の麻痺手と健手における清潔度の相違や片麻痺患者と健常者の手の清潔度の相違、麻痺手不快臭に対する援助の現状を把握した。また、研修会では嗅覚機能や脳の構造についての解剖形態学的知見も得ることができた。他研究者からは、皮膚ATP値・皮膚pH値の測定などデータ収集技法の教授を受け、実験手順の再考を行った。それらをもとに数名の予備調査を実施し、調査方法の修正を行った。平成23年度は、倫理的配慮のもと、修正した調査方法にて健常者の手掌部環境の実態調査および麻痺手不快臭の増悪因子の増殖状況と麻痺手不快臭の発生状況を経時的に検証し、先行研究にはほとんど見られない安価で簡便な石けんを用い、明確になった増悪因子や状況に応じた援助方法を検討する。
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