研究概要 |
生体肝移植(LRLT)は末期肝不全患者にとって唯一の救命的治療であるが、健康な家族員から肝臓の一部を提供してもらうという究極の利他的行為に頼っている治療でもある。そのため倫理的社会的課題も議論されている。しかし一方で、LRLTドナーの術後の精神的QOLや自尊感情は高値を示す報告もある(Schulz, K-H.et al, 2009)。ただ本邦でのLRLTドナーの自尊感情についての調査はまだない。また、健康なLRLTドナーにとって、肝切除手術は想像を絶する体験であり、その周手術期に有効な看護支援を行うことが、術後のLRLTドナーの精神状態に影響を与えることが予測される。そのため本研究では周手術期に焦点を当て、LRLTドナーの自尊感情の変化を測定した。 LRLTドナー手術は侵襲も大きく、その時期に調査等を行うには、十分な倫理的配慮が必要である。そのため研究者は術前のICに同席し、対象者から研究参加の同意を得た上で、手術目的で病棟上に入院後、術前から術後を通して、対象者のベッドサイドを訪問し、データ収集を行った。 自尊感情の測定には、Rosenberg (1965)の自尊感情尺度を用いた。Kernis, Grannemann, & Barclay (1989)らは、自尊感情を短期間で変動するものとして捉えている。本研究も彼らの研究を踏まえ、同一対象者に対して複数回の自尊感情尺度による測定を実施した。さらに今回の対象期間は周手術期とより限定した短期間であるため、尺度による数字のみでは顕著な結果が出ない可能性も考えられる。そのため、周手術期の生体肝移植ドナーへの参加観察を行い、それらを補完データとした分析も行っている。参加観察を用いたデータ収集には時間を要するため、現在までに収集した症例数は9例である。量的分析に耐えうるためにも、次年度さらに症例数を重ねる予定である。
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