研究概要 |
精神科医療において隔離・身体的拘束は必要な医療行為ではあるが,人権尊重の観点から可能な限り縮小されることが望ましい.本研究では,患者の状態を詳細に把握し安全で適切な解除指標を確立するための継続的な行動解析を可能とするシステムの開発を目指す.今年度は,「安全かつ効果的な行動観察・解析方法の確立」に関して,行動を数値化して抽出するための画像処理アルゴリズムの開発を行った. 1オプティカルフローと重心位置などを用いた行動識別 画像から人物領域を抽出し,その人物領域の重心やオプティカルフローなどを求め,その時間的変化を入力として行動を識別するニューラルネットワークを構築した.入力データは重心座標,身体を四肢と胴体の5部位に分割した部位毎のオプティカルフローの平均からなる12次元の情報を30フレーム分蓄積した360次元の情報とした.テスト画像として保護室を模擬した部屋で患者が取りそうな行動(睡眠,ベッド上で過ごす,歩行など)を撮影し,その行動の識別を行った結果,9割程度の識別が可能であった. 2シルエットを用いた行動識別 個人情報保護の観点から可視画像の撮影が困難になることも予想されるため,(1)の手法よりも曖昧な情報で識別可能かどうかを検討した.個人識別ができないようにモザイクをかけた可視画像や熱画像から得られる情報を想定し,人物領域のシルエットから取り出せる情報を検討した.人物領域の面積,重心位置,人物領域における重心位置の縦横比を算出し,被験者の位置,姿勢(仰臥位,座位,立位)との関係を調べた結果,カメラからの距離,部屋での位置,座位は識別可能であるが,仰臥位と立位は方向により困難な場合もあることが分かった. 今後は健常者と患者の行動データに対して上記アルゴリズムを適用し,患者特有の特徴を抽出可能なのかを明らかにする必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
行動の特徴量抽出アルゴリズムの開発を引き続き行うと共に,開発したアルゴリズムを用いた患者データの解析を行う.臨床データを取得しながら実験を行うために,本研究の目指すシステムが画像そのものの取得ではなく,画像処理によって得られる行動解析結果であることを強調し,理解と協力を求めていく.また,可視画像の撮影において,個人を特定できる情報を減らしつつ,行動解析に必要なデータを確保するため,顔部分を認識し自動的にモザイクをかけるシステムを追加することを検討する.
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