本年度は、22年度に引き続き妊婦群の起立-歩行開始動作に関する解析を実施し、さらに未経産女性を対象として、妊婦体験ジャケットを用いて模擬的に腹部重量を増大させた状態で、起立-歩行開始動作を計測し、実際の妊婦データと比較することで、妊婦ジャケット活用の可能性を検討することを目的に研究を行った。妊婦体験ジャケットは、妊娠中期(+3.7kg)および後期(+7.2kg)の設定で腹部の重量を増大させた。妊婦体験ジャケット着用時・非着用時での動作を比較した結果、非着用時よりも妊娠後期の設定で、起立後、足尖離地時の遊脚側膝関節屈曲角度が有意に小さくなっており、下肢挙上が少ないまま歩行を開始していた。しかしそれ以外の、実際の妊婦において妊娠時期の違いにより有意差が認められた起立時体幹屈曲角度や離殿から単脚支持までの所要時間、一歩目足尖離地時の股関節屈曲角度といったパラメータでは、有意差は認められなかった。 22年度に実施した妊婦を対象とした研究においても、妊娠週数の進行に伴い、歩行開始時の股関節下肢挙上は少なくなっていたが、股関節屈曲角度の変化であり、膝関節屈曲角度には有意差は認められなかった。以上の結果から、妊婦体験ジャケット着用時には、腹部重量増大により起立-歩行開始動作における動作様式の変化が生じることが確認されたが、実際の妊婦とは異なる戦略を用いて代償的に動作を行っていることが示された。腹部重量増大による動作様式変化の多様性も踏まえつつ、今後、妊婦ジャケットを用いた研究を行う際には、着用時間や動作への慣れといった要因について更なる検証が必要となると考える。 本研究において、実際の妊婦と、妊婦体験ジャケットを用いた模擬的な状況下では、異なる戦略を用いて動作を行っていることが明らかとなった。本研究の成果は、妊娠中の安全で快適な動作方法指導のための重要な基礎情報であり、非常に意義がある。
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