国内外の精神疾患に関する疫学研究から、初回エピソードは10代を中心とした若者層に集中していることが明らかにされている。また、厚生労働省が「今後の精神保健医療福祉施策の更なる改革に向けて」(平成21年9月)の中で、今後の基本的方向性として若年層を対象とした早期支援体制の検討を重点施策の一つとして挙げている。以上を鑑みると、児童思春期を対象とした精神疾患の早期支援のための精神保健医療福祉体制の整備や実践方法の確立は必須といえる。そこで本研究では、基礎的資料としてA地方にある児童思春期病棟に勤務する看護師を対象に質問紙調査を郵送法にて実施した。質問紙は基本属性調査票、佐々木らが開発した看護職の職業的アイデンティティ尺度(PISN)、児童思春期精神看護に関する自由記述で構成した。 有効回答は78.6%(126名)であった。職業的IDは記述統計、一元配置分散分析、t検定による統計解析の結果、年代・性別・資格・学歴・経験年数・職位ごとで有意差は認められなかった。このことから、児童思春期に勤務する看護師は、個人属性に左右されることなく自分なりの関わり方や看護観、役割意識を持って看護実践を行っている事が考えられた。また、自由記述を質的帰納的に分析した結果、「魅力」については【思春期という発達上で重要な時期での関わり】【患者と家族との相互理解の促進】【専門病棟の少ない分野】【人間としての成長】【難しくて感じない】、「困難さ」は【家族との関わり】【言葉遣い・関わり方】【患者理解】、「看護の役割」は【キーパーソン】【多職種間の潤滑油】【情報提供者】【家族との橋渡し】、「意識している事」は【距離感】【患者の全体像の把握】【肯定的アセスメント】にそれぞれカテゴリー化できた。このことから、スタッフは児童思春期という発達段階への困難さを抱えつつも、一方ではその発達段階に関われることに肯定的な思いを抱いている事が示唆された。
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