摂食・嚥下機能と口腔関連QOLは有意な関連を認めたが(P<0.01)、口腔内日和見感染微生物との関連は認められなかった。施設入所高齢者に多く罹患する誤嚥性肺炎は複合要因によって発症するが、中でも二大要因とされるのが摂食・嚥下機能と口腔内日和見感染微生物の状況である。本調査では、摂食・嚥下機能と日和見感染微生物の保有状況は独立の関係にあることが示唆されている。そのため、誤嚥性肺炎予防のためには、摂食・嚥下機能の維持・向上と口腔内日和見感染微生物の減少・消滅の両面から対策を考えていく必要があると考える。 口腔内微生物保有の有無は、残存歯と補綴状況(P<0.05)に関連しており、総義歯装着者の口腔内に多くの微生物が保有されていた。本調査では口腔内微生物の有無と現行の口腔ケアの回数や方法との関連は認められなかった。先行研究からも日常でなされている口腔ケアでは微生物を減少させる効果は弱いものと考える。歯科専門職が行う専門的口腔ケアによって微生物の減少が報告されていることから、専門的口腔ケアの方法を施設入所者の口腔ケアを最も行っている職種である看護師に教育していく必要があると考える。また、本調査では高齢者の保有する微生物の種類が特定されており、特定の微生物の消滅に焦点を絞った歯磨き粉などの用具を開発することも有効であると考える。 摂食・嚥下機能は、ADL、在所期間、口腔ケア実施にあたっての面倒さ意識などと関連していた。ADLの中でも食事の自立状況と密な関連を示し、在所期間に関しては36ヶ月未満と以上で有意な差が認められた。介護老人保健施設は短期入所施設であるため長期入居者へのケアは十分になされていない可能性がある。入居の長期化を防止する策が必要であり、併せて、口腔ケアを面倒だと感じさせないためにも、口腔ケアの意義を高齢者自身に認識させる教育が必要であると考える。
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