本研究の目的は、1)在宅筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)人工呼吸療養者の口腔の問題とその対応の実際について明らかにすること、2)在宅ALS人工呼吸療養者の口腔ケア技術の体系化を行うこと、である。本年度は、(1)神経難病専門病院において45名の対象者の口腔の問題について担当保健師に聞き取り調査し、そのうち新規・転院等を除く37名の口腔の問題を平成22年度のデータと比較、(2)在宅ALS人工呼吸療養者16名の口腔および口腔ケアの問題を抽出し、歯科医師らと口腔の問題への応策を整理・検討し、うち7名に口腔リハビリテーションを実施・評価、の2点を実施した。 (1)については、45名の口腔の問題として、流挺過多26名(57.8%)、開閉口困難14名 (31.1%)、舌の飛び出し10名(22.2%)、咬舌8名(17.8%)が指摘された。37名の1年での経年変化として、2010年には指摘されなかった療養者に流挺過多、開閉口困難がともに4名(10.8%)、咬舌2名(5.4%)が新たに指摘された。(2)については、初年度に明らかとなった対応に苦慮していた舌の肥大、咬舌、開口困難等の口腔および口腔ケアの問題について、歯科医師らと対応策を検討し、困りごとのある療養者に、継続的に口腔リハビリテーションを実施し、全例で不快症状が軽減していた。舌が歯列を超え、口腔粘膜に潰瘍を形成していた1名においては、状態に合わせてマウスピース等も導入し、1ヶ月後に潰瘍は消失し、4ヶ月後には舌が歯列内におさまった。ALS療養者の口腔の問題の発生機序を特定することは困難であるが、開閉口困難や舌の飛び出しには筋萎縮や固縮等が影響していると考えられる。本研究を通じて口腔リハビリテーションを継続実施することで病気の進行に付随した拘縮や固縮を遅らせる可能性があることが示唆された。今後は神経学や病理学領域との検討を行い、口腔の問題に関して原因を探求していくこと、唾液の処理や咬舌などの口腔の問題について有効な対応策を集約し、看護支援を確立する必要がある。
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