研究概要 |
虚血-再灌流が生じた疾病部位などの酸化ストレス環境においては、組織が低pH環境に曝され、また活性酸素種(ROS)が過剰に発生していることが知られている。このような酸化ストレス疾患の治療薬として、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)などの低分子量の抗酸化剤が注目を集めているものの、低分子量TEMPO誘導体は、腎臓での濾過作用によりほとんどが急速に体外に排泄されてしまうだけでなく、血圧を急激に低下させてしまう問題点を有している。そこで我々は、TEMPOを疎水性セグメント側鎖に有する親-疎水型ブロックポリマーを合成し、高い血中滞留性を有し、かつpHが低下している環境で崩壊するTEMPO内包ナノ粒子(ラジカル含有ナノ粒子:RNP)を設計した。実験動物として9-11週齢の雄性ICR系マウスを用い、右腎摘出後、左腎動静脈の血流を50分間遮断した。再灌流から5分後にRNP(3mg/kg)を尾静脈投与し、再灌流24時間後に採血および腎臓の摘出を行い、腎機能・腎組織障害について対照群と比較検討を行ったところ、腎臓および血中でのRNPの電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを測定したところ、血液中では粒子の形態を維持し、虚血-再灌流後の腎臓中では粒子の崩壊に基づく三本のシグナルが観測され、我々の粒子が設計したように腎臓内で崩壊し、効率よくROSを消去していることが強く示唆された。またRNPを投与することにより、マウス血漿中のクレアチニン(Cr)や血漿中尿素窒素(BUN)は、優位に低い値を示し、高い治療効果を示すことが明らかとなった。さらに、平成23年度においては、このRNPを脳出血・潰瘍性大腸炎・アルツハイマーモデルに展開し、治療効果を明らかにしただけでなく、新しく注射するとその局所でゲル化するインジェクタブルゲルの開発などへの展開も行った。このように疾病環境で特異的に崩壊するインテリジェントナノ粒子は、新しい酸化ストレス疾患に対する治療薬として期待される。
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