<シカ類化石の形態計測>沖縄県立博物館美術館に収蔵されている、沖縄県糸満市から出土したシカ類化石、ハナンダガマ(南城市)から出土した化石の追加資料、および東京大学総合研究博物館に収蔵されている山下町第一洞穴から出土した化石、について大臼歯と下顎骨の計測を行った。また比較対象として、現生ニホンジカならびに現生キョンの計測も行った。計測値の比較を行ったところ、ハナンダガマと山下町のシカ類は歯牙や下顎骨のサイズがほぼ同程度であるのに対し、糸満市から出土したシカ類では、リュウキュウジカが大きく、リュウキュウムカシキョンが小さいという傾向が見られた。いずれの化石サイトも地理的には沖縄本島南部に位置しており、こうした計測値の違いは時代変化を示している可能性が高いと考えられた。<シカ類化石の安定同位体分析>ハナンダガマから出土しているリュウキュウジカとリュウキュウムカシキョン各20点、房総半島の現生ニホンジカと現生キョン各20点、北海道、屋久島に生息する現生ニホンジカ各10点を対象に、安定同位体分析のための大臼歯エナメル質のサンプリングと、アパタイト精製のための前処理を行った。カリフォルニア大学サンタクルズ校の同位体分析研究室に精製試料の分析を委託し、炭素・酸素安定同位体比を求めた。その結果、ハナンダガマのリュウキュウジカとリュウキュウムカシキョンはいずれも現生ニホンジカ・キョンよりも13Cが多く、C4植物をより多く採食していた可能性が提示された。またリュウキュウムカシキョンよりもリュウキュウジカでその傾向はより顕著であり、同所的に生息していた化石シカ2種で食性が異なっていた可能性が明らかになった。
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