研究課題/領域番号 |
22800015
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 麦野 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (10582760)
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キーワード | 琉球列島 / 化石 / 脊椎動物 / リュウキュウジカ / 古生態学 / 安定同位体 / メゾウェア分析 / 更新世 |
研究概要 |
<シカ類化石の形態計測およびメゾウェア分析>沖縄県立博物館美術館に収蔵されている、ハナンダガマ(南城市)から出土したリュウキュウジカならびにリュウキュウムカシキョン化石、東京大学総合研究博物館に収蔵されている山下町第一洞穴から出土したリュウキュウジカ・リュウキュウムカシキョン化石について、メゾウェア分析のため大臼歯の磨耗状態のデータを収集した。さらに比較標本として、房総半島に同所的に生息する現生ニホンジカと現生キョン、北海道・屋久島産の現生ニホンジカについてもメゾウェアのデータを取得した。房総半島の現生ニホンジカと現生キョンは、前者が中間型の食性を示すのに対し、後者はよりブラウザー型の食性を示すことが生態学的調査から明らかになっている。房総ニホンジカとキョンの比較を行ったところ、予測に反し大臼歯咬頭が丸まっている割合はキョンで有意に高かった。 食性分析によれば、ニホンジカよりもキョンで種子食の頻度が高いことが示されており、また現生有蹄類の種間比較でも、果実食ブラウザーでは大臼歯咬頭が丸くなる傾向が知られている。したがって、本調査からも、果実食がメゾウェア分析の結果に影響する可能性が示唆させた。次にハナンダガマ出土の化石シカ類2種についてメゾウェア分析を行ったところ、両者に有意な違いは認められなかったものの、リュウキュウムカシキョンの方が咬頭が丸まっている比率が高く、前述の結果を踏まえるとリュウキュウムカシキョンでより果実食頻度が高かった可能性が示唆された。房総ニホンジカとリュウキュウジカ、房総キョンとリュウキュウムカシキョンの間では有意差がなく、また現生有蹄類とのクラスター分析では、化石シカ類2種は典型的ブラウザーとクラスターを形成した。これらの結果から、化石シカ類の食性は中間型~ブラウザー型であると推定された。メゾウェア分析による食性推定の結果は安定同位体分析による食性推定結果と大きくは矛盾しないものであったが、安定同位体分析では化石シカ類2種に食性の違いが認められたのに対し、メゾウェア分析では2種に有意な差は検出されず、分析方法による解像度の違いが認識された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の主要部分である、化石シカ類の形態計測、安定同位体分析並びにメゾウェア分析について主要標本のデータ取得と分析が終わっている。年代不詳標本に対する年代測定については、作業スケジュール等について研究協力者との打ち合わせを進めており、研究代表者の育児休業等による中断期間中に進展が見込まれている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年8月末より、研究代表者の育児休業等の取得に伴い本研究課題は中断する予定である。研究再開は平成24年4月を予定している。研究中断期間中に、年代不詳標本についての年代測定法について、研究協力者らが手法開発に取り組む予定であり、研究再開後に年代測定を行うことを計画している。その後、これまでの成果を取りまとめ、時代とともに化石シカ類の生態に変化が生じたか、また生態変化と形態進化の関連性についての検討を行う予定である。
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