日本における再生医療分野は現在の時点で幹細胞研究を中心とする基礎研究と組織工学を中心とする臨床研究が主体となっているが、どちらにおいても長期的なビジョンを見据え産業界との連携が重要視され始めている。フィールドワークの結果、産業界との連携を考える上で、実現性と将来性を兼ね備えたビジネスモデルの策定が急務であることが分かった。再生医療というわれる最先端医療が現在の医療と大きく異なることを前提とした場合に、そのようなビジネスモデルは既存の製薬あるいは医療機器といった産業のビジネスモデルとは異なるものでなくてはならない。現在までの調査により、考えられているビジネスモデルが1つの企業の事業として運営する性質のものではなく、複数の企業が参画するようなネットワークとして運営する性質のものであることが分かった。このような、ビジネスモデルの「実現性」と「将来性」を提示するには以下の2つの過程が必要だと考えられる。(1)ビジネスモデルに内在する各事業の明確化とその事業規模(マーケット)の査定。(2)ネットワークの構築・維持のためのビジョンの共有と政府の支援体制の確立。科学技術社会論の観点からは、(1)の過程を「人による作業のモノへの置き換えとそれに由来する新しい役割の創出の過程」として、(2)の過程を「既存の分類からの脱却と新しいカテゴリーの創出の過程」として捉えることができる。このような科学技術社会論的議論を更に深めることによって、技術移転を複雑な社会的プロセスとして位置づけることで、産業化の難しさについて明らかにしていく。
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