前頭連合野は精神活動の中枢として重要な役割を果たしている。たとえば、目標を達成して報酬を得よう、あるいは罰を避けようという「意欲」は前頭連合野の働きの一つである。最近の研究は、前頭連合野に報酬や罰に対して応答する神経細胞(ニューロン)が存在し、これらのニューロン応答が意欲のコントロールに関与することを示唆している。しかし、意欲に関連した前頭連合野の神経活動がどのようなメカニズムによって生じるのかという根源的な問題は未解明のままである。 本研究では、そのメカニズムを明らかにするため、中脳ドーパミンニューロンから前頭連合野に伝達される神経シグナルに注目する。ドーパミンニューロンは報酬や罰に関連した情報をコードしており、その神経シグナルを前頭連合野に伝達することによって、意欲に関連した前頭連合野の活動を形成する基盤となっている可能性がある。そこで本研究では、ドーパミンニューロンから前頭連合野にどのようなシグナルが伝達されているのか調べることを目的とし、前頭連合野が発達したマカク属のサル(ニホンザルやアカゲザル)を実験動物として用いた行動・電気生理実験を計画している。具体的には、認知課題をサルに行わせ、認知課題遂行中のドーパミンニューロンと前頭連合野ニューロンの活動を記録する。認知課題では、課題の難易度や成功時の報酬量をパラメータとして操作し、サルの意欲をコントロールする。そして、ドーパミンニューロンと前頭連合野の活動を比較することにより、意欲に関わる難易度や報酬量の信号がドーパミンニューロンから前頭連合野に伝達されているのか検証する。 平成22年度は実験設備の整備を行い、本研究のための基盤を整えた。また、サルが上述の認知課題をおこなえるように訓練し、神経活動を記録するための準備を完了した。
|