研究概要 |
脳卒中片麻痺において、発症後より、患側運動感覚野(SMC)、健側SMC、両側の二次運動野、基底核、小脳など多くの領域の過活動が認められ、回復が進むにつれ、それらの活動が減少し正常化していくことが、脳機能画像を用いた研究で報告されている。運動に関わる領域間の神経ネットワークがダイナミックに変化しており、機能回復の過程においては、損傷直後に見られるネットワークの冗長性が減少しネットワークの効率化が起こると考えられる。すなわち運動障害患者におけるUse-dependent plasticity誘導による機能回復の過程において、その運動に特異的な神経ネットワークの変化が生じていると考えられる。 慢性期脳卒中患者においては、しばしば麻痺側上肢の屈筋群による痙縮を生じ、麻痺側上肢の機能を阻害している。これらの患者において、上肢屈筋群の拮抗筋である伸展筋群に特異的にUse-dependent plasticityを誘導することができれば、機能回復が可能である。我々は、末梢神経筋電気刺激の補助下で手関節と手指の伸展筋の運動訓練と患側一次運動野(M1)への高頻度(5Hz)経頭蓋磁気刺激により、患側M1において伸展筋に特異的なUse-dependent plasticityを誘導し、麻痺側上肢機能を長期的に回復させた(Koganemaru et al.,2010)。さらに、我々は上記の介入による神経ネットワークの変化を検討するため、新たに慢性期脳卒中片麻痺患者11名において、介入前後および2週間後に、上肢伸展運動及び屈曲運動中のfMRIを撮像した。その結果、介入後は、麻痺側上肢の伸展運動中に、患側SMC、患側及び健側の背側運動前野の活動が減少した。その一方で,屈曲運動時にはそれらの変化を認めなかった。以上より、ハイブリッドリハビリにより、伸展運動に特異的な神経ネットワークの効率化が起こり、上肢機能の回復をもたらしたと考えられた。このような脳内の神経ネットワークの変化がUse-dependent plasticityの基盤であると考えられる。
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