小胞体ストレスセンサーとして機能するOASIS及びBBF2H7の神経系における役割を明らかにするため、胎生期14.5日目のマウスより神経前駆細胞を採取し、アストロサイトもしくは神経細胞へと分化させることで各分化マーカーの発現レベルを野生型細胞とOASISもしくはBBF2H7欠損細胞とで比較した。その結果、OASISもしくはBBF2H7が欠損することで、神経前駆細胞からアストロサイト及び神経細胞への分化・成熟が遅延していることを明らかにした。さらに転写因子であるOASIS及びBBF2H7の中枢神経系における標的遺伝子を同定することを試み、初代培養神経前駆細胞を用いて野生型マウスと遺伝子欠損マウスにおける遺伝子発現レベルをマイクロアレイプロファイリングによる網羅的解析によって比較検討した。その結果、OASISの中枢神経系における直接的な標的遺伝子を同定することに成功した。さらに、この標的遺伝子をOASIS欠損神経前駆細胞に導入することで、神経前駆細胞からアストロサイトへの分化遅延は改善された。これによってOASISの中枢神経系における機能の一端を明らかにすることができた。本研究結果は小胞体ストレス応答シグナルが神経系細胞の分化・成熟を担う新たな役割を有している可能性を示唆しており、複雑な小胞体ストレス応答機構の解明に、大きな進展をもたらすことが期待できる。今後は神経系細胞の分化遅延による神経ネットワーク形成機構の異常について重点的に解析を行うことで精神疾患発症との関連性を明らかにし、精神疾患の新たな治療基盤構築を目指す。
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