研究概要 |
先行研究において我々は,関節リウマチモデルであるコラーゲン誘発性関節炎マウスのヒラメ筋において,発揮張力の著しい低下が,ペルオキシナイトライトによる筋タンパク質の酸化的修飾を伴うことを示した.そこで本研究では,ペルオキシナイトライトによる酸化ストレスが,関節リウマチにおける骨格筋機能低下の要因であると仮説し,その基礎的研究として,ペルオキシナイトライトが筋線維の機能に及ぼす影響を検討した.NMRI系あるいはC57BL/6系マウスの短趾屈筋から採取した単一筋線維を,ペルオキシナイトライトの供与体である3-morpholinosydnonimine (SIN-1)溶液へ曝露し,強縮時の張力および細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]_i)を経時的に測定した.なお,[Ca^<2+>]_iの測定には,Ca^<2+>蛍光指示薬であるindo-1を用いた.筋線維を0.2mM SIN-1へ曝露する前と,120分間曝露した時点における最大張力およびCa_<50>(最大張力の50%を発揮するために必要な[Ca^<2+>]_i)に差異は認められなかった.しかしながら,曝露時間を延長すると,180±20(mean±SE,n=5)分後に強縮時の[Ca^<2+>]_iの上昇および張力は消失した.一方,安静時の[Ca^<2+>]_iは,曝露前の値と比べ著しく増加した.また,収縮機能が停止した後も筋線維をSIN-1へ曝露し続けると,すべての筋線維は拘縮を起こし,それはミトコンドリア膜電位の低下を伴っていた.なお,SIN-1によるこれらの作用は,0.1mM以上の濃度で誘引された.以上の知見から,筋線維をペルオキシナイトライトへ長時間曝露すると,筋小胞体からのCa^<+2>放出機能が阻害され,収縮機能が停止することが明らかとなった.また,ペルオキシナイトライトによりミトコンドリアの機能が低下することで,筋線維の拘縮が誘引される可能性が示唆された.よって,ペルオキシナイトライトによる退行性変化が,関節リウマチに伴う筋力低下の要因の一つである可能性が考えられる
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