研究概要 |
先行研究において我々は,関節リウマチモデルであるコラーゲン誘発性関節炎マウスのヒラメ筋において,発揮張力の著しい低下が,ペルオキシナイトライトによる筋タンパク質の酸化的修飾を伴うことを示した.この報告を受け,平成22年度には,ペルオキシナイトライトが筋線維の機能に及ぼす影響を検討したところ,長時間の曝露により,筋小胞体からのCa^<2+>放出機能が阻害され,収縮機能が停止することが明らかとなった.また,ペルオキシナイトライトによりミトコンドリアの機能が低下することで,筋線維の拘縮が誘引されることが示唆された.これらの知見は,関節リウマチに伴う筋機能の低下に,ペルオキシナイトライトによる退行性変化が関与することを示唆するものであるが,その分子機構は不明である.そこで平成23年度では,ペルオキシナイトライトによる筋機能低下のメカニズムを,筋小胞体のCa^<2+>放出チャネルであるリアノジン受容体(RyR)の翻訳後修飾に焦点をあて検討した.実験には,NMRIあるいはC57BL/6マウスから採取した短指屈筋を用いた.単離した筋線維をペルオキシナイトライトの供与体である3-morpholinosydnonimine(SIN-1)溶液(1mM)へ曝露し,RyRの翻訳後修飾の変化を免疫沈降法及びウェスタンブロッティング法を用いて検討した.その結果,RyRのニトロシル化やFKBP結合量に変化は認められなかったが,グルタチオン化の量が低下した.また本研究では,ペルオキシナイトライトを曝露した筋線維においてMitoSox Redの蛍光値を測定したところ,蛍光強度が時間依存的に増大したことから,ミトコンドリアにおけるスーパーオキシドの生成量が増加することが明らかとなった.したがって,ペルオキシナイトライトは,RyRの遊離チオール基を不可逆的に酸化することにより,筋小胞体からのCa2+放出機能を低下させ,発揮張力を減少させるものと考えられる.これらの知見は,関節リウマチなどの炎症性疾患における筋弱化に,ペルオキシナイトライトが関与する可能性を示唆している.
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