マウスの洞毛を介した感覚は、三叉神経核群を起始核とする内側毛帯線維を介して視床中継細胞に入力する。幼若期には複数本の内側毛帯線維が中継細胞へ入力するが、その後余剰な内側毛帯線維は活動依存的に除去され、生後21日までに中継細胞は一本の強力な内側毛帯線維に支配されるようになる。我々はこれまでに、一度一本支配が成立した内側毛帯線維が末梢感覚神経の切断によってあたかも幼若期の表現型に戻ったかのように再多重化する現象を電気生理学的に見出してきた。本年度その内側毛帯線維再多重化現象の解剖的基盤を明らかにするために、麻酔下で三叉神経主知覚核洞毛領域に神経トレーサーであるビオチン化デキストランアミンを注入して内側毛帯線維を可視化し、視床内における軸索終末形態を解析した。その結果、偽手術群において個々の内側毛帯線維は終末付近で多数の分枝を生じて、概ね直径100ミクロン以内の限局した空間に集合して終末ボタン(シナプス構造)を形成することが明らかとなり、単一中継細胞への投射が示唆された。一方、末梢感覚神経切断群においても軸索終末および終末ボタンが限局集合する構造は認められたが、その限局した終末構造から離れた場所に投射する軸索側枝が多数認められ、複数の中継細胞への投射が示唆された。また前年度から行っている電気生理学的に内側毛帯線維の軸索側枝を検討する実験を継続して行い、末梢神経切断群においてのみ単一内側毛帯線維が複数の中継細胞に投射する例を得た。これらの解剖学的および電気生理学的な解析から、視床内で内側毛帯線維側枝が生じて機能的なシナプスを形成することが、末梢感覚神経切断による内側毛帯線維再多重化現象の基盤であることが示唆された。本研究は末梢神経損傷時おいて上位中枢で生じる可塑性の基礎的知見であり、リハビリテーション法やブレインマシーンインターフェースの開発等に寄与できる可能性がある。
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