研究概要 |
本研究は全力疾走中の骨盤の動きを定量することにより,その機能的役割を明らかにすることを目的とすることであった.平成23年度は,競技レベルの高い短距離選手群(日本選手権あるいは全日本インカレ100m決勝進出選手)10名と競技レベルの低い短距離選手群(大学陸上部所属選手)10名を対象に,モーションキャプチャ装置を用いて,骨盤および下肢関節の動態についての測定を行った.被験者には,下肢および骨盤の測定に必要なl2点の反射マーカ(左右それぞれの上前腸骨棘,上後腸骨陵,膝,外果,つま先,踵)を貼付し,全天候型の陸上トラックの直線走路を全力で疾走する試行を行わせた.実験には20台の3次元光学式位置測定装置を用いて,サンプリング周波数250Hzで分析区間内の疾走動作を撮影した.また,走路に直列に埋設した地面反力計測装置より,サンプリング周波数1000Hzで接地期の地面反力を測定した.得られた身体座標データから骨盤の前傾角度と回旋角度を算出し,地面反力や下肢の関節運動との相対的な関係について検討した.その結果,競技レベルの高い短距離選手群は競技レベルの低い短距離選手群と比較して,接地時と離地時の骨盤の前傾角度が有意に大きく,地面反力の推進方向の水平成分の最大値も競技レベルの高い短距離選手群の方が有意に高かった.これらの結果から,競技レベルの高い短距離選手群は,接地期に骨盤を前傾させることで,脚の後方へのスイング動作を容易にさせ,結果的に大きな地面反力の推進方向の水平成分を獲得できていたと考えられる.また,競技レベルの高い短距離選手群は接地期における骨盤の前方への回旋動作の開始が有意に早かったことから,彼らは骨盤をすばやく前方に回旋させることで,離地後の脚の振り戻し動作を容易にさせていたと推察される.
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