研究概要 |
本研究は、施設入居高齢者におけるビタミンD栄養状態と上気道感染および肺炎の罹患、死亡との関係を明確にするために実施した。平成22年度は、ベースデータおよび観察1年目の結果について報告する。 対象者は、採血が可能であった217名(M/F ; 39/178)であった。平均年齢は85.4歳であり、全対象者の75%が要介護3以上であったが、一般栄養状態は保たれていた。血中250HD濃度は平均が10.9ng/mLと46%の対象者が10ng/ml未満のビタミンD欠乏状態であった。一年間の上気道感染および肺炎発症率を算出したところ、上気道感染症は43.5件/100人年、肺炎は、10.6件/100人年、両者を合わせた感染症総合で54.1件/100人年であった。観察期間中の死亡者は男性3名、女性13名であった。なお死亡例が少なかったため、本年度は解析をしない。 感染症総合に関係する因子を検討するために、感染症総合の有無で背景因子を比較した。その結果、既往歴については、無し群で認知症が、有り群で糖尿病の罹患者の割合が有意に高値であった。血中250HD濃度は、ビタミンD欠乏状態とされる者の割合が、有り群で有意に高値を示した。ビタミンD摂取量は、有り群で有意に低値を示した。その他に有意差はなかった。 次に、感染症総合の発症に関与する因子を検討するために、年齢、性別、認知症の有無、BMI、血清アルブミン値、対数化CRP値、血清PTH濃度、ビタミンD欠乏状態の有無を共変量因子としたCOX回帰分析を行った。その結果、年齢(HR, 1.05, 95%CI ; 1.01-1.08)、認知症あり(HR, 0.59, 95%CI ; 0.36-0.97)、ビタミンD欠乏(HR, 1.74, 95%CI ; 1.04-2.91)となった。以上の結果より、ビタミンD欠乏状態が上気道感染および肺炎発症のリスクの一要因になることが示唆された。
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