我々の脳には絶え間なく曖昧な視覚情報が入力されている。この曖昧な情報を先行する非曖昧刺激情報を手がかりとして補完し安定した知覚を形成することは、脳内視覚情報処理に課せられた重要な課題である。しかしながら、この曖昧情報の補完メカニズムについての研究は少なく、とりわけこの脳内視覚情報処理の初期段階での動態については明確になっていない。 視覚ミスマッチ反応振幅は刺激提示後150ミリ秒付近に後頭側頭領域において観察される脳反応で、先行刺激と入力されてくる刺激情報間の逸脱度の大きさがその反応振幅の大きさとして反映されている。したがって曖昧刺激情報知覚が先行する非曖昧刺激知覚になる場合(先行刺激により曖昧刺激情報が補完される場合)はそうでない場合に比べて曖昧刺激情報の先行刺激情報に対する逸脱度は小さくなると考えられる。このことから、曖昧刺激に対するミスマッチ反応振幅は、曖昧刺激が先行する非曖昧刺激により補完される場合はそうでない場合に比べて小さくなると予想した。このことを検討するために本課題では曖昧図形としてnecker cube図形、非曖昧図形としてcube図形を用い、刺激提示には視覚ミスマッチ反応を誘発させるオドボール課題を用いた。脳活動は、時間分解能にすぐれかつ空間的に限局した活動が計測可能な脳磁図で計測した。被験者は、necker cube提示後200ミリ秒後に提示されるcue刺激が提示された時にnecker cubeが左向きか右向きかを判断した。実験の結果、予想とは逆で曖昧刺激知覚が非曖昧刺激知覚になりやすい被験者ほど、曖昧刺激に対するミスマッチ反応は大きくなった。現在は得られた脳活動データについて多信号源解析法を用いることでより詳細に検討している。
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