研究課題
着床は母体と胎仔との複雑な相互作用の末に成立する哺乳類独特の現象であり、着床の異常はすなわち胚の脱落による死を引き起こすことから、その機構を理解することは医療・畜産上重要である。これまで着床期の胚ではX染色体の不活性化など、エピジェネティックな変化が起こることが一部示されているが、その全貌は明らかでない。本研究では、哺乳類の着床に伴って起こるエピジェネティックな変化について、マウスをモデルとして包括的に理解することを目的としている。本年度は、第一に、着床前後でのエピジェネティックな変化をグローバルにとらえるべく、着床前の胚盤胞(胎齢3.5日)と着床後の胚(胎齢4.5、5.5、6.5、9.5日)について、ヒストン修飾特異的な抗体を用いて免疫染色による解析を行った。その結果、転写に抑制的に働くヒストン修飾(H3K9me2,H3K27me3)が着床に伴って大規模にかつ一過性に消失することを見出した。さらに、そのパターンは胚体領域と胚体外領域で異なっており、胚体外領域では着床後も少なくとも胎齢9.5日まで抑制性ヒストン修飾が入らない状態であった。一方で、以上のようなグローバルなヒストン修飾の変化はエピジェネティックな異常モデルである核移植クローン胚においても同様に起きていた。第二に、微小サンプルからの遺伝子発現解析に向けて、着床直後胚(胎齢6.5日)の胚領域と胚体外領域を分離し、それぞれ1サンプルからマイクロアレイによる遺伝子発現発現解析を行う実験系を確立した。今後は、遺伝子発現に対して促進的に働くヒストン修飾であるH3K4のメチル化、H3K9のアセチル化などの解析を追加し、着床に伴うエピジェネティック変化の全体像を捉えるとともに、それに伴って起こる遺伝子発現変化と比較することで、着床でのエピジェネティックな変化の包括的な理解につなげたい。
すべて 2010 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (3件)
The Journal of Biological Chemistry
巻: 285 ページ: 31362-31369
Science
巻: 330 ページ: 496-499
Biology of Reproduction
巻: (in press)
Stem Cells