研究概要 |
これまで,筋サイズが筋力の決定要因であることが明らかにされている一方で,筋サイズあたりの筋力に大きな個人差がみられることも報告されている.その理由の1つに,筋のコンディションの良し悪しが挙げられるものの,この点を検討する研究はなされていない.筋硬度は,筋のコンディションの客観的指標として考えられている.それ故,筋硬度が筋サイズ-筋力関係及び筋の力発揮特性(筋サイズあたりの筋力)に及ぼす影響を検討することは,これまで得られてきた知見をさらに発展させるものであり,ヒトの力発揮メカニズムを明らかにする上で不可欠なものである.本研究では,まず,既知の硬さを持つ2つの参照体(硬い参照体と軟らかい参照体)を用いて,超音波エラストグラフィにより筋硬度を定量する方法を考案した.そして,この方法を用いて,腓腹筋内側頭の筋硬度を測定し,筋サイズの指標の1つである筋厚との関係を検討した.その結果,受動張力がほとんどないであろう足関節角度底屈30度において,両者の間に有意な相関がみられた.続いて,下腿三頭筋(ヒラメ筋及び腓腹筋)を対象に,筋硬度,筋力及び筋体積(筋サイズの指標)との関係を検討した.足関節底屈トルク及び底屈30度の筋硬度は,いずれも筋体積と有意な相関がみられ,その結果,底屈30度の筋硬度と関節トルクの間にも有意な相関がみられた.しかしながら,筋体積を制御変数として偏相関係数を算出した場合には,両者の間には有意な相関がみられなかった.また,筋体積あたりの関節トルクを固有筋力の指標として算出し,これと筋硬度との関係を検討したところ,いずれの足関節角度においても有意な相関はみられなかった.以上のことから,筋硬度の個人間の差異が,筋の力発揮特性における個人間の差異に大きな影響を及ぼさないことが明らかにされた.
|