投球動作のように、一回きりの運動(離散運動)を学習するとき、脳は実際の運動と目標の運動とのずれ(誤差)にもとづいて次の運動指令を修正し、学習を促進する。この考えの下では、誤差情報は運動学習にとって常に好ましいものである。一方、バスケットのドリブルのようなリズミカルな繰り返し運動(周期運動)における脳内メカニズムに関しては、良く分かっていなかった。脳が連続的に誤差情報を受け取る周期運動の場合も、離散運動と同様に、脳の修正指令はうまく働くのだろうか?この問いを解明するために、周期運動を学習する場合に、脳が視覚的な誤差情報を用いて、運動を修正・学習する仕組みを、システム同定という解析手法を用いて調べた。その結果、ある運動サイクルで生じた運動誤差の情報は、その次のサイクルではその誤差を打ち消すように運動指令を修正していた。しかし、誤差情報が影響を及ぼすのは、次のサイクルの運動指令だけでなく、2サイクル後以降の運動指令の修正にも影響を与えていた。しかも、その影響は学習を促進するどころか、かえって阻害するように働いていた。誤差情報が2サイクル後以降の運動指令の修正に阻害的な影響を及ぼすのであれば、運動の視覚的情報を数サイクルに1サイクルだけ与えることで、運動学習の成績が向上するはずである。様々な視覚情報提示条件において、周期運動の学習成績を調べたところ、予測どおり、運動の視覚的情報を4~5サイクルに1サイクルだけ与える方が、毎サイクル与えるよりも、学習成績が向上することを見出した。本研究によって、周期運動の学習においては、運動誤差情報が学習を促進するだけでなく、阻害するものにもなり得ることを初めて示した。過度な運動情報のフィードバックは、かえって学習を阻害するという結果は、スポーツの練習法やリハビリテーション手法に対して実践的な示唆を与える。本研究成果はThe Journal of Neurosciece誌に掲載された。
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