本年度は多重シングルリード量子ドットを用いた多数量子系で重要な役割を果たす量子ホールエッジ状態に関する測定を中心に行った。 量子ホールエッジ状態は長いコヒーレンス長、良く定まったカイラリティ等の特色を持ち、量子ドット等の量子系をコヒーレントに結合させる有力な候補の一つである。このため、その性質の理解は多数量子系を形成する際に重要となり、本研究ではまずエッジ状態でのエネルギー緩和機構を調べるために多数の量子ポイントコンタクトをエッジ状態に結合させた試料の測定を行った。量子ポイントコンタクトを用いて非平衡なエネルギー分布をエッジ状態内に作り出し、伝搬距離によるエネルギー分布の変化を測定することにより、エネルギー緩和の様子を調べた。この結果、エッジ間で粒子の移動を伴う場合の緩和長は30μm以上、エネルギーの移動のみを伴う緩和長は3μm程度であることを確認した。またホットスポットについても測定を行い、その緩和機構が主にエッジ間のエネルギーのみの移動による緩和であることを明らかにした。 またスピンを用いた多数量子系を構成する際に重要となる量子ホールエッジ状態の局所スピン偏極について、ホールバーに結合したシングルリード量子ドットを用いて測定を行った。まず比較的低磁場でのスピン偏極の検出を実現するため、シングルリード量子ドット中のスピン依存2電子状態であるスピンシングレット、トリプレット状態への電子のトンネルを利用した検出手法を提案し、その動作を実証した。またこの手法を用いて、ゼロ磁場からスピン分離したエッジ状態が形成されるまで、ホールバー試料端に形成されるスピン偏極を調べ、これまでのマクロなプローブでは分からなかった低磁場での試料端の局所的なスピン偏極を測定した。 またこれらの測定で得られた知見をもとに、量子ホールエッジ状態等を用いた多重シングルリード量子ドット系の測定を開始した。
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