北極海における海氷減少の主要因は、海洋の温暖化にその要因がある。バロー峡谷を介した太平洋起源の海洋熱の変化は、海氷激減域における海洋貯熱量を大きく左右する。本研究では、継続的な現場観測が確約されていないバロー峡谷において、北極海への海洋熱フラックスを現状で利用可能なデータから推定した。まず北極海へ向かう順圧・傾圧流量成分を推定する方法を確立した。バロー峡谷における順圧流速は、南岸のPt.Hope~Pt.Lay付近の風速(45°方向、27時間前)と最も相関が高く、同岸で発生する沿岸ケルビン波の流速変動への影響が示された。NCEP風速成分と現場での順圧流量との回帰から、無風状態で約0.78Svの北極海への流入があり、ベーリング海峡からの流量のほぼ全てがバロー峡谷へと到達することがわかった。またバロー峡谷における全流量は、流軸における流速データのみで推定可能なことも明らかになった。また流速の傾圧成分に対する主成分分析から、EOF第一モードは典型的な傾圧第一モード様の構造を示した(約70%の寄与率)。順圧成分と同様に傾圧成分のEOF第一モードはNCEP風速成分との間に正の相関を示した。さらに現場における水温鉛直プロファイルを上流側における衛星海面水温データから重回帰により推定することができた。これらの結果を用いて推定したバロー峡谷における海洋熱フラックスの経年変動は、現場観測データによる熱フラックスの経年変動とよく一致した。
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