今年度は、主に研究実施計画に記述した、「アミロイド線維形成機構と無定形な凝集の形成機構の区別」でアルコール存在下におけるアミロイド線維形成の挙動について詳細に調べた。当研究室で独自に組み立てた全反射蛍光顕微鏡(TIRFM)と、モデルペプチドとして、II型糖尿病の発症に関係するとされているIslet amyloid polypeptide (IAPP)を用いた。TIRFMによるアミロイド線維伸長リアルタイム観察は、アミロイド線維形成機構およびアミロイド線維の特性を可視化することが可能である。アミロイド線維形成反応を直接観察することは、まだ明らかされていない線維形成分子機構の手掛かりや、現在提唱されている分子機構の直接的な証明となる。また、II型糖尿病の発症機構に関する知見を得て、将来的に新たな治療方法の開発に貢献することも期待できる。 IAPPは疎水性に富んだアミノ酸からなり、非常に凝集性が高い。IAPPの粉末を水系の溶液で溶解させるとすぐに白濁した。これに対し、様々な濃度のヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)を添加した溶液では、白濁することなくアミロイド線維を形成した。アミロイド線維と無定形な凝集を区別するための蛍光色素を用いて観察すると、水系の溶液では線維と無定形な凝集の両方が形成されたが、HFIP存在下ではアミロイド線維のみを形成したことが明らかになった。蛋白質・ペプチドの二次構造を調べる円二色性分散測定を行ったところ、線維を形成する初期の段階でIAPPの二次構造がHFIPの有無で異なっていることがわかった。HFIPは水系の溶液に添加するとクラスターを形成する。このクラスターは細胞表面の環境と似ており、今後より詳細な線維形成の分子機構に関する知見を得ることもできる。現在までに得られたデータをまとめて論文を投稿中である。
|