研究計画の2年目である平成23年度は、石垣・西表島周辺海域を中心とした野外サンゴ群集の調査・海水採取と栄養塩濃度測定を実施した。 一部の採取海水の分析については、分光分析法を用いたより精度の高い測定を必要としたため、紫外可視分光高度計を新たに導入した。これにより硝酸・亜硝酸・アンモニウムイオン・リン酸濃度についての詳細データを得ることができたと同時に、サンゴ共生藻類の光合成色素量の測定も可能となった。野外では、光・水温ロガーを設置し、各海域の温度・光環境特性把握をおこなうと同時に潜水調査による多種のサンゴにおける病気の罹患状況と海域の栄養塩特性とに焦点を当てた調査を進めた。各種異常についてカテゴリー分けを進め、野外における異常原因を探索したが、栄養塩濃度の時空間的変動が大きいことから、直接的な結論を導き出すにはいたらなかった。また、昨年度中に得られたサンゴ調査結果を踏まえ、海水中の栄養塩とサンゴ被度との相関性について解析を進めたが、相互の相関性を明確に示すことはできなかった。しかしながら、特定海域における栄養塩濃度の変動傾向をつかむことができた。 室内実験系では、比較的高濃度の栄養塩がサンゴ類に及ぼす影響を明らかにするための実験を実施した。昨年度得られた知見から、沖縄の造礁サンゴの中でも特に栄養塩ストレスに弱いサンゴと考えられるコユビミドリイシおよび、相対的に栄養塩ストレスに強いことが示唆されるエダコモンサンゴやパリカメノコキクメイシなどを選定し、栄養塩負荷を加えた飼育観測実験をおこなった。クロロフィル蛍光法により植物体へのダメージをモニターしつつ行った実験から、比較的高濃度の栄養塩条件下において、共生藻類の光合成異常を伴わない組織剥離などの異常を示す種と比較的影響が見られない耐性種とが明らかになった。昨年度の研究から得られた成果と合わせて、日本サンゴ礁学会および同自由集会などで適宜発表をおこない、多分野研究者との議論を交わすことができた。
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