本研究の目的は、出産等によるキャリアの中断を経た労働者にとって、教育訓練および技能育成上、有効となるキャリア・システムを導き出すことにある。そのモデルとして女性技術者に焦点をあて、ヒアリング調査を通じて、女性技術者の技能・知識の性質、作業組織の特徴、技能育成メカニズム等を明らかにすることである。 2010年度は、大手電機メーカーを訪問し、人事担当者、工場の職長レベルの労働者にインタビュー調査をおこなった。同時に予定していた自動車産業へのヒアリング調査の調整がうまく進まなかったため、計画外ではあるが、電気通信業のエンジニア職、放送局の専門職そして小売業の総合職での女性労働実態について、インタビュー調査を実施した。いずれの職場においても、これらの職種で働く女性の勤続年数は、過去のそれと比較すると伸びており、出産後に復職する女性の比率も上がっている。ただし、いずれの職場でも、妊娠・出産時の女性の離職者は少なくなく、女性の長期勤続は未だ大きな課題として残されている。また今回調査をおこなったのはいずれも大手企業であることもあり、結婚や出産後の男女労働者に対して、就業継続が可能となるような制度が充実していた。たとえば、転勤の幅を限定する制度、配置や職種の転換、就業時間の短縮やフレックス化などである。そして出産後も就業を継続する女性の多くは、これらの制度を利用していた。しかし今日、そうした制度を利用しない者(多くの男性労働者や独身の男女労働者など)から、そうした制度の利用者に対する優遇について不満が出ていることが、いずれも職場でも確認された。従来の男女間の格差から、独身者と既婚者の格差へと問題がうつり、新たな職場内の不公平感が生じている。現在、インタビュー調査の結果をまとめ、整理・分析をすすめている。
|