本研究の目的は、出産等によるキャリアの中断を経た労働者にとって、教育訓練および技能育成上、有効となるキャリア・システムを導き出すことにある。そのモデルとして女性技術者に焦点をあて、ヒアリング調査を通じて、女性技術者の技能・知識の性質、作業組織の特徴、技能育成メカニズム等を明らかにすることである。平成22年度は、主に大手電機メーカーを訪問し、人事担当者、工場の職長レベルの労働者にインタビュー調査をおこなった。平成23年度は、主に情報通信業のエンジニア職、放送局の専門職そして小売業の総合職での女性労働実態について、インタビュー調査を実施した。 いずれの職場においても、これらの職種で働く女性の勤続年数は、過去のそれと比較すると伸びている。ただし、いずれの職場でも、女性の長期勤続者および管理職層の多数は、未婚者や既婚者であっても出産を経験していない女性であり、未だに妊娠・出産時の女性の離職者は少なくない。またいったん離職した女性の再就職については、専門職においても、研究計画上、想定していた以上に容易でないことが、インタビュー調査では示された。とくに電機メーカーの技術者や情報通信業のエンジニア職においても、ここ数年間の技術発達のスピードは極めて速く、数年間のキャリアブレイクは、キャリア発達上大きな遅れとなることがわかった。こうした専門職においても、出産育児後の再就職にあたっては、同一企業への復職以外は極めて難しい。実際、調査をおこなった大手電機メーカーでは、技術者のヘッドハンティング、転職者の受け入れをほとんど行っていなかった。そのなかで、就業を継続している女性技術者の多くは、出産後の就業継続をサポートする社内制度を活用しながら、短期間のキャリアの中断を経て復職しているケースが多いことがわかった。
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