研究概要 |
申請者はFe_4N薄膜をMgOトンネル接合膜へ適用したところ,新たにインバース磁気抵抗効果とインバース電流誘起磁化反転現象を見出してきた.本研究ではそれらを発展させ,反転電流密度低減化と,次代の新奇スピントロニクスデバイスの創成に向けた技術課題の明確化を目的としている.本年度は「平成22年度実施計画」に則り,1.Fe_4N層を磁化固定層とした保磁力差型MgOトンネル磁気抵抗膜の作製,2.MgO障壁層の極薄化,高品質化を行った.積層膜の品質は,微細加工により実際にデバイス化し磁気抵抗効果を測定することで確かめた. 作製した積層膜構成は(100)Si単結晶基板/Cu5/Fe_4N5/Cu200/Fe_4N(磁化固定層)100/Mg 0.4/MgO 0.5/CoFeB(磁化自由層)3~4/Ru 10(膜厚単位:nm)である.膜厚最適化でFe_4NとCoFeB層との間の保磁力差を確認した.X線構造解析によりCu下地層上のFe_4N層がγ'相であることを確認した.電子線リソグラフィーとイオンミリングを用いた微細加工プロセスによって,80×160nm^2の寸法を有するデバイスを作製した.直流4端子法を用いた磁気抵抗効果の測定をしたところ,トンネル磁気抵抗変化率-8%が得られると同時に,CoFeB層の急峻な磁化反転も確認された.よって次年度予定している,電流誘起磁化反転の実験に対応したデバイスの準備に成功した. インバース電流誘起磁化反転現象は,以前まではFe_4Nを磁化自由層としたときに確認されていた.しかし磁化固定層のスピン分極率が磁化反転方向の決め手であるという,従来のスピントルクトランスファー理論では説明できない.今回作製した積層構造はFe_4Nを磁化固定層としたもので,実験を通して現象の理解が進む点で意義深く,従来理論の修正や新しい理論の構築の基礎となる重要な検証実験である.
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