本研究の目的は、下降流懸垂スポンジ(Down-flow Hanging Sponge : DHS)リアクターを応用することで、「廃水処理」と「クリーンエネルギー(水素ガス)の生産」を同時に行う新規の光合成水素発酵廃水処理バイオリアクターを開発することである。平成22年度は、平成22年11月頃に実験装置の設計と発注を行い、平成23年1月より実験装置の試運転(通水試験による水漏れ点検、外気(空気)を遮断させる必要があるので気密性の確認)を実施し、1月中旬より連続実験を開始した。DHSリアクターは高さ700mmとし、リアクターの鉛直方向に微生物保持担体である三角柱ポリウレタンスポンジ(20mm×20mm)を24個(スポンジ総容積96cm^3)貼りつけた構造とした。また、リアクターは25℃の恒温室に設置し、照度7000~8000luxの蛍光灯によりスポンジ貼付け部全体を照射した。リアクター内部は定期的にアルゴンガスを充填し嫌気条件を保持した。実験開始時には、下水処理場の嫌気性消化汚泥をスポンジ担体に植種した(汚泥濃度:12.16g-VSS/L、汚泥量1.09g-VSS)。連続実験に供した人工廃水はグルコースを主成分とし、実験開始から35日目(PhaseI)までは、流入基質CODを500mg-COD/L、HRTを24時間、スポンジ容積基準のCOD容積負荷を0.5kg-COD/m^3-sponge/day、35日目以降(PhaseII)は流入基質CODを2500mg-COD/L、HRTを6.4時間、COD容積負荷を10kg-COD/m^3-sponge/dayとした。その結果、PhaseIIにおいて、水素生成速度0.0092mmol/m^3-sponge/h、水素収率8.83x10^<-4>mol-H_2/mol-glucoseとなった。これらは、光合成細菌の純菌培養液を使用した研究と比較し、1/100程度の値である。本研究では、下水処理場からの消化汚泥を植種源としており、光合成細菌の菌体量に大きな差があったためと推察された。また、実験後期には生成ガス中のCO_2とメタン濃度の上昇が確認されたことより、生成した水素が水素資化性メタン生成菌に消費されたと考えられた。これらより次年度は、水素生成菌を優先化するため、基質条件、光強度および光波長別のバッチ実験を実施し最適な光合成水素発酵条件を追求する予定である。
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