研究概要 |
試料を壊すことなく高感度・リアルタイム測定が可能な「化学イオン化質量分析法」は,実大気観測手法として広く利用されている.しかしこれまで,生成制御が可能で実用化されている試薬イオン種(特に負イオン)の数は少なく,種々の化学的性質を持つ大気中有機化合物のイオン化に最適な試薬イオンの検討を行うことができなかった.本年度の研究では,まず,「精密コロナ放電」の原理を応用し,ニードル電極先端に発生する電界強度と電子の運動エネルギーを決める因子,すなわちニードルへの印加電圧と平板電極に対するニードルの角度を変化させることで,大気成分に由来する様々な正負試薬イオンX^+, Y^- (X : H_3O; Y : O_2, HO, HO_2, CO_3, HCO_4, NO_2, NO_3, NO_3(HNO_3)_2)の制御生成が可能な新規大気圧試薬イオン源を構築した.続いて,様々な官能基(アルコール性・フェノール性水酸基,カルボキシル基,アミノ基など)を持つ有機物と各種試薬イオンを反応させたところ,1)個々の試薬イオンは,試料の持つ官能基の性質に応じて選択的に反応する,2)塩基性有機物はH_3O^+との反応による正イオン,酸性有機物はO_2^-やHO^-との反応による負イオンとして効率よく検出される,3)試料と試薬イオンの反応は,オリフィス(質量分析計のイオンの導入孔)の構造に依存して進行することが明らかとなった.本研究成果は今後,負の試薬イオンと有機物の反応機構に関する基礎研究を可能とし,大気化学の進展に貢献すると期待される. さらに本研究では,大気エアロゾルの生成機構の解明に貢献する成果も得られた.すなわち,これまでほとんど報告例のなかった様々な負の大気イオン水クラスターY^-(H_2O)_nのマススペクトルを取得し,各種負イオンの第一水和殻およびマジック数(大気エアロゾル成長の核となる)に関する新たな知見を得ることができた.
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