本研究は、仏像を納める器である厨子について、その意匠構成を分析することにより、仏像を中心とする一空間が体現する意味や機能への理解に迫ろうとするものである。 研究初年度である平成22年度は、弥勒像を安置する厨子を中心に調査・分析をおこなった。神奈川・称名寺光明院厨子入り弥勒菩薩小檀像および同院伝来の黒漆塗り厨子について、これらを管理する神奈川県立金沢文庫において調査・撮影した。本調査に先だって、関連する研究活動として、研究会での口頭発表(第二回空間史学研究会、於東北大学、平成23年2月15日、発表題目「仏像光背考-仏教彫刻の霊験性と"空間史"」)をおこなっている。発表内容は、厨子と同じく、仏像を中心とする礼拝空間を形成する一要素として光背をとりあげたもので、京都・醍醐寺三宝院弥勒菩薩像光背の解釈を試みるための重要な検討材料として、上記の厨子2作例についても考察を試みた。今回の実見調査によって得た知見と撮影した接写画像は、中世における弥勒信仰と造形の関わりを考察するうえで、有益な材料となると思われる。 また、称名寺厨子入り金銅愛染明王像、栃木・光得寺厨子入り大日如来像の調査(於金沢文庫)もおこない、今後取り組むべき密教像関連の厨子についての知見を得た。年度末には、京都(蓮光寺、大報恩寺)、奈良(奈良国立博物館、東大寺、興福寺)、滋賀(安土城歴史博物館)などで資料収集をおこなった。弥勒像以外の尊像、とくに釈迦如来像・阿弥陀如来像・観音菩薩像を納める厨子のほか、舎利厨子について、儀礼との関わりを主眼に検討材料を収集した。
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