平成22年度は、これまで個別に扱われてきた教育と雇用の分野におけるアファーマティブ・アクション双方に焦点をあて、「多様性の管理」の言説がどのような議論のもとで大学において立ち現れたのかを考察するべく、合衆国経済界と大学との関係性について考察を行った。その際、具体的な考察対象として、ミシガン大学における方策の是非を巡って争われた二つの合衆国最高裁判決に対して、企業と大学が提出した法廷助雷書を手掛かりに、双方が多様性に関して展開した議論を扱った。 先ず、企業は、グローバル化する経済のもと、内部に多様な人材を抱えることが「事業の成功」、競争力の強化、延いては国力の増強につながるとする経済的理由から、多様性を実現する手段としてのアファーマティブ・アクションに支持を表明すると同時に、多様な学生の輩出を大学に求めた。このような要求に対して、大学は様々な反応を見せた。科学技術分野系の大学、専門職大学ならびに名門大学では、産学協同体勢を擁護する論調が見られた。そこでは「後ろ向きで時に懲罰的な」補償から「前向きで包括的な」多様性への転換を重視する未来志向性が喧伝された。加えて、伝統的黒人大学や州立の法科大学院では、補償と多様性を同じ文脈で捉える論調が見られた。そこには、過去と現在を将来につながる連続陸のもとで捉え直す視座が存在していた。この長期的差別是正の議論は、多様性が有する「教育的恩恵」の議論と相まって、同言説がその耳触りの良さの裏で経済的利益に回収されてしまう現状に抗う防波堤の役割を担っていたとも言えよう。 以上のように、本年度に実施した研究によって、多様性が、様々な思惑や意図を付与されたマジック・ワード的な概念であり、その解釈いかんによって、企業と大学との紐帯の強弱が規定されていた実態を明らかにすることができた。
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